修繕のタイミングと進め方

ここではマンション大規模修繕を行う時期と具体的な進め方について解説しています。

大規模修繕を行う時期の目安

時期の目安イメージ

マンションで建物の傷んだ部分だけを修繕するのとは別に、一定期間ごとに実施する計画的な修繕工事のことを大規模修繕と言います。

大規模修繕を行うタイミングは早すぎても遅すぎてもよくありません。早すぎると大切な積立修繕金を無駄に使ってしまうことになりますし、遅すぎると建物の劣化を進行させてしまい取り返しがつかなくなるからです。

ではどのくらいの期間で大規模修繕を行うのが良いかというと、一般的には新築から12~13年、もしくは前回の大規模修繕から10年程度の時期が修繕をするタイミングと言われています。

但し、これはあくまで目安にしか過ぎません。環境の違いによりどのマンションも同じように劣化が進むわけではありませんので、建物の状況によって時期は調整する必要があります。

大規模修繕は基本的にはマンション分譲時にデベロッパーが作成した長期修繕計画をもとに進められます。長期修繕計画の中には30年くらい先までの鉄部や外壁塗装工事、屋上防水工事、給排水管工事をどの時期に行うのか費用を含めた予定が記載されています。

しかし、これも当初の計画通り行えばいいというものではありません。

環境や使用状況などによって建物の傷み具合は異なりますし、最初に計画を立てた時点でどの部分がどの程度劣化するかというのは正確に予測できないからです。

したがって、計画の信用度を上げるためには5年に1度くらい劣化チェックをして長期修繕計画を見直し、次の工事のタイミングを決めるのが望ましいと言えます。

修繕委員会を設置して計画を進める

長期修繕計画にしたがって大規模修繕の時期が近づいてきたら建物診断を行って修繕工事を行うべきかを検討します。

建物診断は専門的知識や経験が必要になるので管理組合が行うのではなく、大規模修繕のコンサルタントなど第三者の専門家に依頼するのがよいでしょう。

そこで具体的な不具合(雨漏り・水漏れなど)がないか管理組合内で確認し、計画通り修繕を行ったほうが良いと判断されたら理事会で修繕委員会というチームを立ち上げます。

マンションには多くの住人がいるため中には大規模修繕なんて必要ないと考えている人や、いろいろ修繕して欲しいと希望する人もいて合意を得るのは大変な仕事になります。

様々な意見を調整して大規模修繕をトラブル無く進めるためには修繕委員会の設置は必要不可欠と言ってよいでしょう。

修繕委員会の人数に決まりはありませんが賛成・反対が同数になるのを避けるために奇数にするのが望ましく、5名程度で構成するのが理想的です。

修繕委員会の方で大規模修繕の概要を決め住人の合意を得ることができたら、次にどこに依頼すべきかという業者選びへと進めていくことになります。

マンションの寿命だと判断したら建て替えを検討する必要がある

築年数や劣化の進行によってはマンションの寿命と判断する必要があります。しかし、マンション建て替えは、事例も少なく大規模修繕以上に慎重性が求められるのです。どのような基準で建てかえを判断すればいいのでしょうか。

マンションの寿命とは

マンションが一般家庭向けの住宅として登場したのは、1960年代からと言われています。まだ現役のマンションも数多くあることから、寿命に関する明確な決まりは定められておりません。RC造の寿命に関する研究も進められており、様々な推定がされています。

★鉄筋コンクリートの寿命に関する推定

  • 鉄筋コンクリート造建物の物理的寿命を117年と推定
    (飯塚裕(1979)「建築の維持管理」鹿島出版会)
  • 鉄筋コンクリート部材の効用持続年数として、一般建物(住宅も含まれる)の耐用年数は120年、外装仕上により延命し耐用年数は150年
    (大蔵省主税局(1951)「固定資産の耐用年数の算定方式」)
  • 固定資産台帳の滅失データを基に(中略)平均寿命を推計した結果、RC系住宅は68年
    (小松幸夫(2013)「建物の平均寿命実態調査」)

引用元:【マンション売却のソムリエ】相場値段を知るためのマンション査定
http://www.mansion-uru.com/cat4/post_16.html

このように、マンションは適切な管理を行なえば、長きにわたり住み続けることができるのです。マンションは機能的理由や経済的理由により、寿命よりも早く建て替えられています。
寿命など様々な理由により、建て替えの実施例も0.23%と極めて低く、前例が少ないため大規模修繕以上に慎重さが求められるのです。

マンション建て替えが難しい理由とは

マンションの建て替えを行なうためには、居住者の4/5以上の賛成が必要となります。高齢化が進んでいる現在では、建て替えによる生活環境の変化に難色を示す世帯も少なくありません。また、高額の建築費がかかる建て替えは、修繕積立金だけでは到底まかないきれません。ローンなどを使用する方法もありますが、今後の返済プランを考慮すると、建て替えに踏み切れずに計画を見送ってしまうのです。

建て替えを検討する際はしっかりと計画を練ることが大切

今は大規模修繕で耐久性が維持できていても、いずれは寿命を迎えることになります。その時に必要となる建て替えのためにも、今から準備を整えておくといいでしょう。建て替えは前準備に10年の期間を要すると言われています。マンションを運用している以上は、10年~20年先のプランを考えるようにしましょう。

マンションの建て替えに必要となる4つのプロセス

建て替えのプランを検討する際は、4つのプロセスを明確にしておきましょう。長い期間を伴う各項目は、根気強く向き合っていく必要があります。

準備段階

居住者や理事会が中心となりマンションを存続させるために、建て替えを含めた方針のあり方を決めるのが準備段階です。勉強会などを開催し、更なる検討を行なうかどうかを決議します。

検討段階

検討段階は建て替えと大規模修繕、双方のメリットを比較して検討する段階です。専門家を招き、マンションの老朽度などを踏まえた上で、建て替えの必要性を慎重に議論していきます。居住者や理事会が中心となる準備段階とは異なり、検討段階からはプロセスの主導権を管理組合が握ることになります。

計画段階

計画段階になると建て替え計画の方針が本格的に決まります。マンションデベロッパーをはじめとする事業協力者らと会議を重ね、建て替えに必要な費用や工事の進め方を明確にします。その後、居住者と面談を行ない、区分所有法で必要な4/5以上の賛成が集まれば本決定となるのです。

実施段階

建て替えが本決定し、実際にマンションを建築する段階が実施段階です。法律上必要となる、マンション管理組合の設立や、権利変換計画を作成し工事に着手します。 再建したマンションの管理規約や管理組合を更新し、再入居手続きを終えたら建て替えは完了です。

建て替えと大規模修繕~どっちが得かを見極める~

このように建て替えを行なうには、数多くのプロセスをクリアしていく必要があります。その中で特に重要となるのが「検討段階」です。
耐用年数を経過したマンションは決して、建て替えを行なう必要はありません。大規模修繕で耐久性が維持できるのであれば、そちらの方が安く済むのです。マンションの現状をしっかり見据え、確固たる決断を下してください。

マンション建て替えに必要となる費用とは

マンションの建て替えには建築費以外にも様々な費用がかかる。先ほど紹介した4つのプロセスに沿って、費用内訳を見てみましょう。

建て替えにかかる費用一覧

準備・検討段階

会議や勉強会を開催する費用、セミナーの受講料、コンサルタントへの相談料、居住者向けアンケートの実施費用、新しいマンションの構想図を作成する費用、劣化診断や耐震調査費用、見積り取得にかかる費用など

計画段階・実地段階

旧マンションの解体・整地費用、新マンションの設計料、設計計画書の作成費用、新マンションの建築工事費用、工事中の仮住まいにかかる費用、一部住人の立ち退き料、登記や税に対する費用、など

高額の費用を懸念している人は~等価交換のススメ~

数多くの費用項目を目の当たりにすると、マンション建て替えを諦めたくなるかもしれません。しかし、建て替えで多く行なわれている等価交換であれば、費用の負担がなく建て替えが行えるでしょう。
等価交換とはマンションオーナーが保有する土地と、不動産会社が建てるマンションの一部を交換する方式です。建て替え後の出資比率に応じて、土地建物の所有率が決まります。
不動産会社との共同出資という形になるので、修繕積立金等の自己資金がなくても建て替えが行なえます。

等価交換のメリット

資金を確保する手間が省けることが魅力でもある等価交換ですが、それ以外にも数多くのメリットがあります。

マンションを自由に設計できる

建て替えるマンションは自由に設計することが可能です。そのため、賃貸用の部屋と自分たちが住む部屋を、異なった間取りで設計できます。自己資金がかからない分、マンションの建築費に充てることができるので、バリアフリーなどの設備を費用負担なく設置できます。

税の優遇措置が適応される

通常、土地の譲渡を行なう際は、その譲渡益が課税対象となってしまいます。しかし、等価交換の場合では「立体買い替えの特例」が適応となるため、譲渡税を繰り延べることが可能です。

注意点も忘れずに確認

メリットが多い等価交換ですが、事前に確認すべき注意点もあります。等価交換の場合、土地の所有権は不動産会社と共同化することになります。そのため、実質的な所有権は失われてしまうのです。家賃収入で得ることができる利回りも低くなるため、運用プランはしっかり計画しておく必要があります。 また、等価交換は不動産会社にとって、リスクを共同化することにもなります。ですから、土地の立地条件によっては、等価交換を断られてしまうケースも少なくありません。

弁護士・建築士に相談することから始めましょう

様々な手間や資金が必要となるマンション建て替えは、個人で行なうには負担の大きい取り組みとなります。弁護士や建築士にはマンション建て替えを専門としている機関も多いため、準備段階の時点でアドバイスを求めに行くといいでしょう。
長期的に管理していくことになるマンションだからこそ、徹底した下準備の元で損失のない運用を行なう必要があるのです。