タワーマンションと言えば、かつては購入希望者が殺到し、入居が困難なほど人気が高かった物件です。国土交通省が提供している住宅経済関連データの「超高層マンション竣工戸数の推移(首都圏)」によると、ピークである2007年では、約24000戸に近い数のタワーマンションが竣工しています。
それをもとにして考えたとき、一般に大規模修繕の周期が10年~15年になりますので、2017年から2022年にかけて、大規模修繕のラッシュが始まると推測されます。
タワマン・クライシスとはその名の通り、タワーマンションの危機を意味します。具体的には大規模修繕の積立金が不足する、というもの。不動産業界の間ではタワマン・クライシスは周知の事実と言われてるほど現実味があるのです。
タワマン・クライシスが起こる原因は、修繕積立金の不足と言われています。タワーマンションの大規模修繕の難しさについては後で詳しく説明しますが、莫大な費用がかかってしまい工事を依頼することが難しいところが多いようです。
このようなことが起こる多い理由として挙げられるのは、入居者を募るために、実際の工事の費用と比較して大幅に積立金を低く見積もってしまうから。大規模修繕を行うためには別途ある程度の金額を徴収する必要がありますが、中には支払いが困難な入居者もいます。そうなれば退去する方も多くなり、残った入居者の負担が増えると言った悪循環に陥りかねません。最終的には誰も居なくなった廃墟のようなタワマンが残る上、大規模修繕が行えず安全性を確保できないリスクの高い物件へと成り下がってしまうことにもつながります。タワマン・クライシスが現実のものにならないように、早めに対策を講じることが重要です。
タワーマンションの大規模修繕は、通常のマンション以上に難しいのが一般的です。なぜ、こんなにも難しくなるのか原因を探っていきましょう。
タワーマンションが普及し始めたのは1997年の建築基準法改正がきっかけ。さまざまな規制が緩和されたことにより、建築されはじめることとなりました。
そのため、多くのタワーマンションの大規模修繕工事の前例はまだ少なく、工事のノウハウなどが全く確立されていません。ですから大規模修繕工事を請け負うことが出来るのは、マンションを建築したゼネコンをはじめ一部の施工業者だけになってしまいます。さらに高層階になれば、ゴンドラを使用し作業を進めていく必要がありますが、強風が吹くことも多く、対策を十分に行う必要があるでしょう。つまりタワーマンションというかなり高所での作業に対して、ほとんどの施工会社が慣れていないことが問題なのです。
タワーマンションの規模にもよりますが、戸数は比較的多く1棟に付き100戸以上あるところがほとんどです。マンションによっては1,000戸以上の規模のケースもあるでしょう。さらにタワーマンションならではの問題ですが、高層階と低層階では区分所有者の世帯収入に大きな開きがあるとされています。一時期話題になったマンションカーストと呼ばれ、高層階の住人はセレブであることも多いそうです。低層階の住民とは価値観の違いも大きいため、管理組合によって入居者の合意形成を行うことが難しくなるでしょう。
さらに投資目的で購入しているケースもあり、全体での意見がまとまることは困難と言わざるえません。その結果、積立金の値上げに反対する声も多く聞かれるので、大規模修繕工事への対策を講じることが出来なくなってしまいます。
一部のタワーマンションの中には、デザインが凝ったものや独特なフォルムをしていることも多々あります。もちろん見た目にはオシャレで、ひと際目立つなどの魅力もありますが、大規模修繕工事となるとデザインに合わせて施工方法を工夫しなければならず、マイナスになってしまう可能性がほとんどです。たとえば高層階、中層階、低層階でデザインが変わる場合、それに合わせて足場の種類、工法など変更する必要があります。またラウンジや屋上デッキなどの共用スペースについても、別途改修工事を行わなければなりません。つまりタワーマンションのうりのオリジナルポイントによって、費用が膨れ上がることがあるのです。
上記で述べたようにタワーマンションの場合、大規模修繕工事を請け負える会社が限られてしまうため、工事費が一般のマンションよりも割高になることが多いでしょう。とくに大規模修繕工事が集中している近年では、それに伴って価格も高騰していると言われています。さらにタワーマンションにおける大規模修繕工事は、工期が長期になってしまい5年以上の期間が必要になるというケースもあるようです。
通常の規模のマンションの場合、ある程度の劣化状況を目視で判断することができます。しかしタワーマンションの場合、目視で判断することが困難のため望遠鏡やドローンを用いて行うケースもあります。しかしこれらの方法では確認も難しく、ドローンであれば事故も起こりやすいため正確に判断するのはほぼ不可能でしょう。また1階での打診結果が高層階の劣化状況と一致するとは言いにくく、風が強く吹く高層階の方がダメージは受けやすいという問題もあります。
高層階における劣化診断が困難であれば、長期修繕計画をもとにして工事の実施時期や内容を考えるしかありません。そのため低層階に住む人の中には、そんなにダメージもないのに大規模修繕工事が必要なのかは疑心暗鬼に陥ってしまい不満が膨れてしまいます。不満がある状態で一時金を徴収するとなれば、拒否することも多くなるでしょう。
タワマン・クライシスによる廃墟化を避けるためにも、マンションの大規模修繕について考えておくことが大切です。愛着のある居住地に少しでも長く安心して暮らし続けるためにも、大規模修繕計画は早い段階で検討を始める必要があります。例えば大規模修繕に成功したマンションのモデルケースとして有名な、埼玉県川口市のタワーマンション「エルザタワー」では、修繕の8年前から管理委員会が活動していました。このように、少しでも修繕工事について住民同士で話し合いを行う機会を多く持つようにしましょう。管理委員会は工事が割高になるのか、修繕工事を行う意味、修繕工事を実施しないリスクなど説明し、少しずつ住民の理解を深めることが大切です。理解を得ることによって修繕積立金の増額などの提案も受け入れやすくなるでしょう。様々な状況の人々が暮らすタワーマンションだからこそ価値観を押し付けずに、しっかり話し合いを行ってください。
また、タワーマンションの大規模修繕を請け負ってくれる業者は少ないのが現状ですが、ゼロではありません。少しでも費用を抑えるためにも複数の業者の相見積もりを行うようにしてください。また大手のスーパーゼネコンと呼ばれるようなところに依頼すると、余計な中間マージンが発生してしまい費用も割高になりやすくなります。そのため大手と言う基準で選ぶのではなく、大規模修繕の専門業者かどうかで検討するようにしてください。コンサルタント会社に監理を任せるのも一つの手です。修繕工事に関して専門家の視点で監理してもらえれば、技術的にどうか、スムーズに修繕工事がすすんでいるかのチェックができます。ただしコンサルタント会社は施工業者とは別の会社に任せるようにしてくださいね。